硝酸体窒素分析  ーOG-FI-310NOー No.1

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硝酸体窒素分析はOG-FI-310NOにお任せ!と小川商会の数ある装置の中でも自信を持ってお勧めできる渾身のFIA(フローインジェクション分析)専用装置です。なぜそこまで自信が持てるのか?それは,硝酸態窒素の検出のための化学反応を極めた研究と実験に裏付けされているからです。だからこそ,現場で分析業務に従事する皆様には装置を信頼して安心してお使いいただくことができます。
小川商会のFIA装置の歴史は,硝酸体窒素の分析をもっと正確に,もっと安全に,もっと簡便・迅速に,から始まりました。従来から行われているバッチ法ではカドミウム・銅を充填したカラムに検水を通液させて,中間の留分を分取して発色反応に供する方法です。しかし,前段階としてカドミウム・銅カラムの活性化や洗浄操作が必ず必要で,この段階で操作は煩雑,作業に長時間を要し,大量の有害なカドミウム廃液が出てしまいます。さらに分析の精度という観点からは,活性化,洗浄操作による還元率の回復,向上の見極めが難しく,最良の状態で還元操作ができているかが不安であったはずです。

一方,イオンクロマトグラフィーなども使ってよいことになっていますが,現場では海水試料やマトリックスが複雑で汚れた試料の注入を嫌う傾向もあり,常に有効な分析法とは限りません。そんな現状を踏まえて小川商会では,FIA装置の専用機化第一弾として硝酸体窒素の分析をターゲットにして,もっと正確に,もっと安全に,もっと簡便・迅速な分析を可能にしました。以下に,その考え方を述べていきます。

検出に用いる化学反応を正しく理解して,キーとなる反応を抑える

硝酸体窒素の分析を考えると化学反応式は以下の2段階です。

NO3 + Cd + 2H →  NO2 + Cd2+ + H2O

λmax=540nm

 1段階目はカドミウムによる硝酸イオンの還元反応で,2段階目は還元反応で生成された亜硝酸イオンによるジアゾ化カップリング反応となり,2段目の反応の制御が難しそうに思うかもしれません。しかし,この中で「キー」となるのは前者の反応です。この還元反応が100%定量的に完結しなければ分析精度は大きく低下することは言うまでもありません。バッチ法ではまさにこの反応の欠点が問題となっているのです。式に書けば無機の反応で難しいところはないように思うかもしれませんが,例えばカドミウムは100%働ける状態にあるか?式には見えませんが,実際には,カドミウムは水に接触することで金属表面に水酸化物の膜を作って還元力が発揮できていない状態になっていないか? 実は,筆者はそうであろうと推測しています。 次に考えなければならないキーワードです。

カドミウム・銅還元カラムを正しく,期待通りに働かせる

FIAの流れの中でも100%の定量的な還元反応が必須条件

 では,化学式には表れない問題を解決するためにはどうすれば良いか? 特にFIAにカドミウム・銅還元カラムを適用して相乗的な解決に繋がらないか? 筆者は約40年前に,大学時代の大恩師の桐栄恭二岡山大学名誉教授の指導を受けて問題解決に一つの方向性をすでに見出していました。解決策は大きく2点
① 還元力の高いカドミウム・銅(試薬)を見つける
② カドミウム・銅還元カラムは常に活性な金属表面が試料と接することができるように工夫をする
ことでした。
 まず,②については桐栄先生らの開発したキャリヤー溶液を用いることが最善であると確信しました。文献などによれば塩化アンモニウムが添加されたものが提案されていましたが実はそれだけでは不十分で,塩化アンモニウムにEDTAも加えてpHを8.0~8.5付近に調節したものが最適でした。
 ①については,国内外の試薬屋のカタログを調べて,すべてのカドミウム・銅製品を購入して確かめました。粒がそのままはいったものや水に沈んでいるもの,粉末状のものなどなど,実にいろんな形で販売されていて興味深かったです。ただし,ほとんどの製品がそのままで高い還元率を備えてすぐに使えるような状態では売られておらず,バッチ法の洗浄や活性化が必要であろうことは容易に想像がつきました。また,銅がコーティングされているはずなのに銅の赤色は呈しておらず,どれも金属の色をしていることで銅の付着量は少なく,酸化還元の化学式に現れない銅の化学的存在意義はどこにあるかにも興味があったことを記憶しています。そんな中で唯一使える試薬レベルで市販されているカドミウム・銅に行き当たりました。ラッキーだったと思います。
 次にカドミウム・銅を充填して,FIAのオンラインに組み込むことを考えなければなりませんでした。桐栄先生はご自分で多数の試作品を製作しておられましたが,筆者は「餅は餅屋にお任せ」よろしく,樹脂のデバイスを設計することで実績のある会社と共同で,カドミウム・銅を充填するガラス管と外径1/16インチのチューブと簡単に接続できるジョイントを製作して,充填部は内径2.2 mm,長さ15cmのガラス管のカドミウム・銅還元カラムが出来上がりました。
 このカドミウム・銅還元カラムを流路内に組み込んだFIA装置を硝酸体窒素分析用専用機種としてOG-FI-310NOの型番を付けて完成です。この装置が本当に100%の定量的な還元と再現性の良い迅速な分析に寄与するものか,次回の詳細な説明に先駆けて典型的な結果を硝酸体窒素,亜硝酸体窒素のフローシグナルの形で以下に示します。

硝酸体,亜硝酸体窒素のフローシグナル

 いずれの濃度においても硝酸イオンと亜硝酸イオンのピーク高が等しいことは,還元率が100%であることを示しています。この方法では1時間当たり30~40試料の分析が可能で,その際の廃液量はわずかに60mlとバッチ式用手法での1試料測定分の廃液量よりも少ないことわかります。硝酸体窒素の分析をもっと正確に,もっと安全に,もっと簡便・迅速に,が達成できそうですよね。
 このOG-FI-310NOの詳細は次回に紹介します。
 次回のキーワードは,

  • FIAの流れの中だからこそカドミウム・銅還元カラムの特性は生かされた
  • FIAの流れの中だからこそ発色反応は自由自在に考えてもいい
  • しかし,まだ解明できないカドミウム・銅の正体

これらを軸に詳細に説明します。
乞うご期待を!!


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