No. 1ではOG-FI-310NOで硝酸体窒素の分析を,より正確に,より安全に,より簡便・迅速に行うために筆者が開発段階で考え,実行してきたプロセスをキーワードとともに紹介しました。特に硝酸イオン還元用「カドミウム・銅還元カラム」の開発について,これまで表に出してこなかった実験の経緯などを記しながら説明しました。一つの製品が生まれ,商品となって市販されるに至るまでに,「創り手」の使命としての地道な実験が行われていることもお判りいただけると幸いです。
さて,本稿No. 2ではOG-FI-310NOの基本がFIAにあるからこそ発揮される特長を以下のキーワードを中心にして少しだけ深く説明してみたいと思います。
FIAの流れの中だからこそカドミウム・銅還元カラムの特性は生かされた
FIAの流れの中だからこそ発色反応は自由自在に考えてもいい
FIAでは特別な場合を除き,キャリヤー溶液や試薬溶液は常に流れています。OG-FI-310NOのフローシステムを以下に示します。

OG-FI-310NOは3流路まで送液できるローラーポンプ1台を搭載していて, キャリヤー溶液と2種類の試薬溶液を流します。キャリヤー溶液の流路にはサンプルインジェクターとカドミウム・銅還元カラムが導入されており,EDTAと塩化アンモニウムを含むpH8.0~8.5のキャリヤー溶液は装置が稼働中は常にカドミウム・銅還元カラムに流れています。このことが当たり前であって,とても重要な点です。すなわち,充填されているカドミウム・銅の金属表面は,常にEDTAを含むキャリヤー溶液で“洗浄・活性化”され続けている状態が保たれているわけです。まさに,いつ試料が流れ込んできても定量的な100%の還元力を発揮できるスタンバイ状態がキープされているのです。そして,試料がカドミウム・銅還元カラムを通過して硝酸イオンが亜硝酸イオンとなってカラムから流れ出ていくと,カドミウム・銅還元カラムはもとのようにキャリヤー溶液が送られてきて再び“洗浄・活性化”の状態が保たれることになります。実際の分析操作ではこれが繰り返されることになり,カドミウム・銅還元カラムは常にフレッシュな金属表面で試料を待ち受けることができていて,100%の還元力を維持できる仕組みなのです。“常にキャリヤー溶液,試薬溶液が流れているFIA”の強みがここにあると言えます。“FIAの流れの中だからこそカドミウム・銅還元カラムの特性は生かされた”という意味はおわかりいただけましたでしょうか。
第1回目の技術紹介で,化学反応に注目したとき,複雑そうな有機発色反応ではなく,単純そうに見える硝酸イオンの定量的な還元反応がキーとなることを強調しました。「定量的」とか「100%」というキーワードがFIAの基本的な概念のひとつと若干,矛盾すると直感したのは筆者だけでしょうか。もう一度FIAの基本概念をバッチ法との比較で改めて考えてみると,通常のバッチ法では,試料液を採取して測定に至るあらゆる段階で
“全ての反応が完全に平衡状態に到達した状態いわゆる定常状態”
になっていることを前提としています。これに対してFIAでは,
“反応が定常状態に移行しつつある過渡的状態”
を意識的に利用しています。従って,測定はバッチ式分析法よりもかなり迅速に行われ,かつ検出に利用できる信号は無限に存在することになります。すなわち,FIAでは「定量的」とか「100%」を目指すのではなく,「定常状態に至る前の過渡的な状態,例えば50%や10%しか反応が進んでいない状態をも積極的に利用することも目指している」とも言えるわけで,このことが分析の迅速化に大きく寄与しています。実際に亜硝酸イオンのジアゾ化カップリング反応の吸光度検出反応はまさにこの過渡的状態を利用して,1時間当たり30~40試料の迅速な分析を可能にしています。“FIAの流れの中だからこそ発色反応は自由自在に考えてもいい”とはこのことを言い表しています。
余談ですが,「この定常状態にないところを検出に利用するのは化学分析の手法としていかがなものか」という主旨の理由でFIAは長い年月,JISや公定法への採用が認められなかったという歴史がありました。
さて,筆者の言う「若干の矛盾」とは,「定常状態」と「過渡的状態」の使い分けにあったと言えます。これらFIAの基本概念を理解し,端的に説明するのに,筆者はOG-FI-310NOは重要な要素を含んだ典型的な装置であると思います。FIAの「検出」においては,“反応が定常状態に移行しつつある過渡状態を積極的に利用して分析の迅速化を推進する”ことも目指しながら,硝酸イオンの還元操作などのように「前処理反応」は,“完全に平衡状態に到達した定常状態”をFIAの流れの中であってもしっかりと創造しなければなりません。この2つの異なる状態をしっかり理解してFIAを構築していくことこそ重要であると今さらながら気づかされます。硝酸イオンの還元以外で“完全に平衡状態に到達した定常状態”の前処理反応を行わなければならないFIAで良く用いられる技術としては窒素やリン化合物の分解反応を上げることができます。JIS K0170 第3部全窒素,第4部リン化合物に規格化されていますので,一度ご確認いただければ幸いです。
筆者の独断が出過ぎているかもしれませんが,FIAの奥深さも感じていただければ嬉しいです。 さて,次回はもう少しだけカドミウム・銅還元カラムにフォーカスして,実験データを示しながら以下のキーワードを念頭に解説したいと思います。
カドミウム・銅還元カラムの還元力を妨害する物質を探り,耐久性について考えてみる
反応式に現れないカドミウム・銅における銅の働きは?
乞うご期待ください!
